白昼夢の青写真【感想】

ゲーム

白昼夢の青写真、クリアしましたので、感想書いていきます。このゲーム、令和3年9月14日現在、僕の中で全エロゲの中で最高傑作です。そして、これ以上に面白いエロゲが出てくることが想像できません。それくらいの傑作です。非の打ちどころがありません。各シナリオの感想を書いていきます。ネタバレありで書きますので、未プレイの方はブラウザバックをお願いします。

CASE-1は疲れ切った非常勤講師『有島芳』と小説家の娘『波多野凜』の物語です。

有島芳はかつて小説家になる夢を追い、その夢を諦め今は現実的な落とし所を見つけた男です。有島のような中年の話は、僕のような人間には刺さります。僕のような、というのはかつて夢を追って今はそれを諦め、日々無為に過ごしている人間です。 CASE-1は印象的な言葉が多く、それは有島が凜を諭す言葉であったり、有島が自分自身に向けた言葉であったりします。特に印象に残った場面の言葉を引用します。

現実世界と折り合いが付けられるなら、

物語に触れる必要などないのかもしれない。

これは、同じ非常勤講師の同僚と出会って有島が感じたことです。同僚の渡辺は『物語を必要としない人種』です。凜の父親である波多野秋房の作品すら知りません。僕らの感覚で言うと、村上春樹を知らないような感じでしょうか。この言葉はそのまま、現実と折り合いが付けられないから物語に触れる必要がある。となります。現実逃避をして物語に触れてばかりしている僕には響きました。このゲームをやるほぼ全ての人に響くのでは?とも思います。

「そんなことをしていると、最後には身動きがとれないくらい

 可能性が狭まるんだ」

この台詞は、凜の質問に対してはっきりと答えを言わない有島に対して凜が「なにも、はっきりとこたえてくれない」「でもそのほうが、色んな可能性が残るのかも」と言ったシーンのものです。そしてこのセリフの後に有島は凜に「それだけは断言できる」と言います。何もかも曖昧にして誤魔化して『はい』とも『いいえ』とも言わない、或いは『言えない』人っていると思います。僕もです。いつからかずっとそんな風に生きてきて、でもそれで誤魔化せていたつもりでした。可能性にかけるのであれば曖昧にして先延ばしにするのではなく、せめて選択肢を選んでいればよかったと思うことは今思えばたくさんあります。ゲームだって、選択肢が出てきたら選ばなければ前に進めないのに、臆病すぎたんですね。

有島に対する共感は決して特別なものではないと思います。有島はもう一度小説を書くという情熱を思い出し、再度挫折し、そして最後には救われます。本当に心に刺さる物語でした。

CASE-2は場末の酒場を経営する劇作家『ウィリアム・シェイクスピア』と女性が舞台に立つことのできない時代に女優を目指す『オリヴィア・ベリー』の物語です

僕はこのシナリオが最初でした。始めてすぐに、このシナリオに引き込まれていきました。そういう意味で CASE-2が最初の物語でよかったです。このシナリオでは僕がエロゲをやる理由を再認識しました。僕がエロゲをプレイするのは『ここではない、どこか』へ行けるからです。CASE-2では本当に1595年のイギリスにいるかのような気分になります。CASE-2はCASE-1とは逆で、理想の生活(僕にとって)でした。小さいけれど自分の店を持ち、少ないけれど常連になってくれる客がいて、自分の作った物語を売って生計の足しにできる。信仰に対する弾圧はあれど、仲間といる生活。そして何より『才能にあふれる若者』であること。後にも先にも彼以上の詩人は存在していません。全て揃っているんですよね。才能ある主人公が悩めるヒロインと出会い助け合い、仲間を鼓舞して全員で成功していく物語、正統派です。面白くないはずがありません。最初から最後まで気持ちのいい物語でした。

CASE-3はカメラマンを目指す学生『飴井カンナ』と本当の自分を隠している教育実習生『桃ノ内すもも』の物語です。

この物語はモラトリアムの物語だと感じました。主人公のカンナは不登校児で、ヒロインのすももは教育実習生ですが何も楽しくない教育実習生の自分に疑問を感じています。『今の自分は本当の自分じゃない』と思っている大人でも子供でもない人間です。僕もこう思ったことはあります。1度や2度ではありません。というか今でも仕事に行くたびに思っています。すももと同じですね。多くの人が、少なくとも1度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。そして、夢(本当の自分)を諦め現実的な落とし所を見つけたのがCASE-1の有島であり僕たちであり、本当の自分を生きているのがスクラップハンターの梓姫であり、狭間でもがいているのがカンナとすももです。家族(親)という枷(猫撫風に)があることで自分の思うままに行動できないもどかしさ、不自由さは本当に共感します。カンナは外部からの枷であり、すももは内部からの枷なので種類は違いますが、これも普遍的なテーマだと思います。物語の終盤でスペンサー嵐山が来るシーンはこのゲームで最初に泣いた場面でした。なぜこの場面で涙が出るんだ、と自分でも思いましたが。(笑)

父親がカンナの夢を積極的ではないにしろ少なからず応援してくれている、という事実とカンナのカメラマンという職業に対する焦燥感とがすれ違っている、というのがこの物語のポイントなんですよね。父親はちゃんと学校行って卒業しろ、と言っているだけで。当たり前というか何というか。中盤全く出番のない父親が最終的に背中を押してくれるところ、素直に好きです。

CASE-0は『海斗』と『世凪』の物語です。全てはこのCASE-0のための物語でした。

このシナリオでは、なぜCASE-1~3の夢を見る必要があったのか、幕間で垣間見える現在の世界の状況はいったいどうなっているのか、海斗はなぜ記憶がないのか、その全てが海斗の幼少期から記憶を無くす直前までの記憶を追体験するという形で語られ、そしてこの物語の結末が語られます。本当に悲しく、美しい物語でした。幼少期に母のために労働をする海斗と海斗に新しい世界を見せる世凪、青年期の研究員となって中層に行きたい海斗と下層の生活にこだわる世凪、成人してから研究に没頭する海斗とそれに協力する世凪、途中からは暗い未来しか見えずに、そんな中でも明るく振舞う世凪の姿に心打たれます。そして、自我を取り戻した世凪が見せてくれた青空と黄色い花見える景色。別れを言う凜、オリヴィア、すもも、そして世凪。あの場面では涙が止まらず、慟哭しました。何度も書きますが、悲しくて美しい最高の物語です。終盤泣きすぎて泣いた記憶が強すぎてまともな感想が書けません。

【感想】

シナリオ・絵・BGM・OPとED、全てにおいて完璧な作品です。シナリオについてはだいぶ話したので、他の部分にも触れていきます。まず絵が最高、世凪が可愛すぎます!とくに青年期に入ってからの髪をサイドで結んでるあの世凪、異常に可愛い。これまで僕の中で最高の絵を描くのは狗神煌先生と和泉つばす先生でしたが、そこに霜降先生も加わることになりました。BGMも良かったです。特に好きだったBGMはNo one knows・涙の軌跡・繋がれた孤独・手垢に塗れた詩・凍てつく水底・書き続ける日々・涙の行方・鳴山の空・No More Tears・ Conversion one・ Narrative town・何度でもこの応酬を・Imitation night ・Technical Argument・暗礁・遠い日に想いを馳せて・海が凪ぐまでは、です。多すぎる?好きなものは好きです。OPもEDも非常に良く、特にCASE-0のOPはゲームを終えた後に聞くと『手探りでも形をなぞれば』の部分で泣きそうになります。本当に良い。

ゲーム全体の総合評価(10段階)としては

キャラクター 10

シナリオ   10

音楽     10

立ち絵    10

一枚絵    10

総合評価   10

です。

僕はそこそこエロゲの名作をプレイしています(ほぼ名作しか触っていません)が、そのどれもオール10点の評価は付けられません。やはりどこか足りない個所があったりします。白昼夢の青写真は、悪い場所が全くありません。完璧です。冒頭でも書きましたが、僕の貧弱な想像力ではこのゲーム以上にクオリティが高いゲームを想像できません。まだまだ未プレイで面白いと言われているゲームやツイッターで教えていただいた面白そうなゲームがたくさんあります。ライターさんの書くシナリオにはそれぞれ良さや味があり、白昼夢の青写真で感じる面白さと他のゲームで感じる面白さは別物です。そういったことを忘れ単純に作品全体の完成度だけを論ずることがないように、これからのゲームを楽しんで行きたいと思います。そしていつか、全体の完成度が白昼夢の青写真を超える作品が出てきてくれることを願って、感想を終わりにしたいと思います。この作品を僕にお勧めしてくださった全ての方、本当にありがとうございました。

それでは。

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